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【意思決定の話 許容可能な損失とは-】 ~下川 哲平~

2023年08月08日

皆さま、こんにちわ!

 

A&Mコンサルト、専門コンサルタントの下川です。

 

8月のホームページブログは、下川が担当させていただきます。

最後までお付き合いくださいませ。

 

 

さて、皆さまは「エフェクチュエーション(Effectuation)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 

 

インド出身の経営学者「サラス・サラスバシー」が提唱した市場創造に関する実行理論であり、次々とイノベーションを起こし、

 

新市場を創り出すような優れた起業家の意思決定プロセスを理論化したことで知られています。

 

 

起業家の行動様式をまとめた「5つの原則」が特に有名ですが、詳しい内容については、今では山ほど書籍やインターネット記事が出ているので、

 

ぜひ調べていただければと思います。

 

なおその際は、日本におけるエフェクチュエーションの第一人者である神戸大学 吉田満梨准教授が書かれた記事を見ていただくことをおすすめします。

 

 

 

このブログでは、エフェクチュエーションの示唆を用いて、日本企業の経営における意思決定について考えたいと思います。

 

 

企業経営は大小様々な意思決定の連続です。

 

この意思決定において、一定規模以上の日本企業で起こりやすい問題があります。

 

 

それは、新たな市場を生み出すような新規事業や新サービスを検討する場面で、

 

リーダーシップを発揮すべき人材(経営層や管理職者)がリスクを恐れて挑戦的な意思決定ができないという話です。

 

 

「データが足りない(情報不足)」

 

「うまくいく訳がない(昔の経験)」

 

「◯◯の方がいいんじゃないか?(すり替え)」

 

「◯◯さんには聞いたのか?(転嫁)」

 

「その書き方ではわからない(難癖)」

 

などなど・・・。

 

 

まるで不足や過失をズバッと言い当てることが能力の証だと言わんばかりに、提案を棄却すべき理由を並べ立てます。

 

 

このような人材は、(自分が組織で評価されてきた経歴を根拠に)正しいプロセスで意思決定をしていると主観的に思い込んでいるため、

 

交渉が難航するという特徴があります。

 

 

様々な理由がありますが、要するに「成功する確証が持てない」と言いたいようです。

 

 

しかし、新市場を生み出すための新規事業や新サービスは、誰も見たことがない、

 

聞いたことがない、やったことがないからこそ価値があります。

 

すでに、どこかの誰かがやっているビジネスは競争不利だからです。

 

極めて不確実性の高い状況にあるため、情報収集に時間を使ったところで、成功する確証など絶対に得ることはできないのです。

 

 

では、どのようなプロセスで意思決定をするのが良いでしょうか?

 

 

ここで、エフェクチュエーションの考え方に学びたいと思います。

 

優れた起業家が用いる意思決定の理論であるエフェクチュエーション、この5つの原則の一つに、「許容可能な損失の原則(Affordable Loss)」があります。

 

 

スタートアップやこれまでにない市場や顧客を生み出す事業開発というのは極めて不確実性の高い状況です。

 

このような状況ではそもそも失敗が起こるということを前提とする必要があります。

 

「どのくらいの成果が出るか?」で判断するのではなく、「仮に失敗したとしてもその失敗が許容可能であるか?」という基準で判断を下すのです。

 

これが「許容可能な損失の原則」です。

 

 

一線で活躍する起業家の志向性がわかったでしょうか?

 

彼らは、どのくらいの成果が約束されているかではなく、失敗しても許容できるか(再び立ち直って挑戦することができるか)

 

という考え方で意思決定をしているのです。

 

 

上で、意思決定ができない日本の経営層と書きましたが、実はここには創業経営者は含まれません。創業経営者は生粋のイノベーターだからです。

 

問題は既存の企業の中で、被雇用者として評価され、出世した人材です。

 

特に、1990年代以前の人類史上でも稀有の好景気経済を経験した終身雇用サラリーマン上司は要注意です。

 

社内政治の世界で仕事を器用にさばき、失敗をしないことで評価され出世できるという価値観で成長しているため、

 

失敗のリスクがある不確実性の高い意思決定を極端に敬遠する傾向があります。

 

 

彼らは、あれがないこれがないと、注文をつけ、資料を突き返し、アイデアを丸めます。

 

失敗のリスクを軽減するという(合理的だと思いこんでいる)行為に長い時間を費やしたり、話を潰したりして、

 

挑戦しないという企業生存上最大のリスクを犯します。

 

そのような志向性の人材を大量に生み出す構造をつくってしまった日本が、この30年で目の当たりにしている世界的な凋落ぶりは誰もが知るところです。

 

 

リスクをとって挑戦をしなくても企業が存続するという、奇跡のような好景気時代はとっくの昔に終わっており、

 

進化と環境適応できた企業だけが生き残ることができる自然で普通の世界が戻っています。

 

 

挑戦すること、変化することは、不確実性の高い世界で生き残るための前提条件です。

 

そのために発生する失敗(損失)は経営プロセスの一部です。

 

 

もしも、未だに成果の保証や失敗しない条件といった基準で判断が行われている企業は、意思決定の在り方を根本的に変える必要がありそうです。

 

 

最後に・・・。

 

 

これは企業経営に限った話ではありません。

 

むしろ個々人の生き方にこそ適用できる考え方です。

 

あなたの人生の意思決定のプロセスも変えてみませんか。

 

「許容可能な損失」

 

ぜひ覚えておいてください。